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Dr.OHKADO's Blog

. カルテはドイツ語で?

 早いもので今年もあと1か月足らずとなってしまいました.この季節はいつも本当に慌ただしいですが,自分としては身の回りや心の整理をできるきっかけでもあり,決して嫌いではありません.クリニックが来年さらなる飛躍を遂げられるように,しっかりと締めくくれればと思います.

 さて,先日ある患者さんが,「この前入院していた時はインターンの先生が担当でしたよ」といわれました.インターンという制度は,数十年も前に廃止された医師の研修システムにおける無給助手のことで,当時は新米医師の代名詞でした.今は研修医とよばれきちんと給料ももらっているのは周知の通りです.でもインターンということばをいまだに使われる方々は結構おられ,これだけの情報化社会になっても,医療の世界というものは一般の方々にはなかなか理解しにくい世界なのかもしれないと感じます.

 以前ほどではありませんが,「お医者さんだからドイツ語がペラペラなんでしょうね」とか,「カルテはドイツ語で書くんでしょう」といったことを言われることがあります.ドイツ医学が世界をリードし,ドイツ語の教科書が使われたりカルテもドイツ語で書かれた時代は,私が医学部に入った頃よりはるか昔のことです.英語は世界の公用語といわれますが,医学の世界も例外ではありません.今でも医学部でドイツ語は少し学びますが,その意味は正直いって薄れつつあり,今や日常使用する医学用語は主に日本語か英語です.
  かなり年配の先生方の中には今でも主にドイツ語を使う人もおり,また胃をマーゲン(Magen),退院をエントラッセン(Entlassen),死亡をステルベン(Sterben)というように,いまだに習慣的にドイツ語を使う場合もありますが,いずれにせよドイツ語は一部の用語だけがたくましく生き延びているに過ぎません.

 外科,整形外科,形成外科といった用語の区別も,しばしば誤解されています.今でも「外科って骨折とか怪我を診るんでしょう?」と訊く人や,「何で外科なのに胃や腸の病気も見てるんですか?」などという人さえいます.さらに,整形外科と形成外科となると,はっきり区別できる人のほうが少ないかもしれません.整形外科は骨折や腰痛など骨,筋肉系の病気を扱う,一方形成外科は病気や外傷,手術などで損なわれた皮膚や筋肉の形状を正常にできるだけ近く修復する,つまり多分に美容上の必要性に答える科です.形成外科の中で,主に美容だけの目的で分化した分野が美容形成ですが,これを美容整形とよぶ場合もあるからますますややこしい.

 それから,「先生は学生時代から外科を専攻されていたんですか?」というような質問もたまにありますが,これは質問自体がとんちんかんです.医学教育のシステムは国によって千差万別とはいえ,基本的には学生の間に基礎医学,臨床医学の全分野を教えます.病気はひとつの科を越えて関連していることが多く,たとえば糖尿病は内科,特に内分泌・代謝内科の専門とするところですが,腎臓や眼,皮膚,心臓,血管といった全身の臓器に影響を及ぼします.だから何科であろうがある程度の知識は必要で,「わたしは心臓の専門やから糖尿病の「と」の字も知りまへん」というわけにはいかないわけです.

 今でこそあまり大きな声で言う人はいませんが,「脳外科医は医者の中で最も優秀で,産婦人科医はその逆だ」などと言う人までいました.もちろんこれはまったくの誤りで,そんなことを言ったら産婦人科の先生達が怒ってしまうでしょう.この妙な考え方の根本には,おそらく扱う臓器の性質に対する偏見があるのだと思います.つまり,脳は非常に高等な臓器(と思っている)だからそれを扱う医師も非常に優秀,子宮や卵巣はその逆,というわけでしょう.また産婦人科医というと女性の股間ばかり診るのが好きなエッチな医者という歪曲したイメージがあるからでしょうか.
  しかしそうだとすると,泌尿器科医は男性の一物を診るのが好きだとか,皮膚科医は気持ち悪い皮膚病を診るのが好きだ,というような極めて変態的な論理になってしまいます.医師が何科を専門とするかは種々の理由がありますが,少なくとも臓器に優劣はありません.私も現役の心臓血管外科医時代に,「心臓外科ってむずかしいでしょう,すごいですね」といわれました.しかし,心臓外科が簡単であるとはいえないものの,心臓という臓器だけについて言えば,これはただの血液ポンプであって,それ以上のものでもなんでもありません.臓器の複雑さ,神秘さから言えば脳や子宮や卵巣のほうが果てしなく複雑かつ神秘的であり,すごいのです.

 そして最後になんと言っても,日本の医師の生活や待遇の実情については,なぜこれほどまで頑なに誤解されているのかといいたくなりますが,これはいくら口すっぱく真実を説明しても「でもやっぱりお医者さんはいいわよねえ」などと,人の説明をまったく無視した無責任な答えしか返ってこず,こちらが疲れるだけなので,最近はもう何も言わないようにしています(笑).

 とにもかくにも,これだけ情報化社会になったといってもやっぱりわれわれの世界は一般の人々にとってはまだまだ不可思議な,誤解されやすい世界であることだけは確かのようです.
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Dr.Ohkado

Author:Dr.Ohkado
神戸市中央区新神戸駅ちかく,神戸芸術センタービル内医療モールにある循環器科を主とする開業医です.
徒然なるままに,日々考えていることをエッセイとして書き綴っていきます.
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