Dr.OHKADO's Blog

. 引き際の美学

 先日,日本の女子柔道家,谷本歩美選手が引退しました.今後は後進の育成に力を注ぎたいとのこと,晴々とした笑顔でインタビューに答えていたのが印象的でした.

 彼女はアテネオリンピック,北京オリンピックの女子63Kg級を連覇,それもすべての試合でオール一本勝ちしたという輝かしい実績を残したのは記憶に新しいところです.オリンピックで連覇した日本人は他にもいますが,世界の並み居る強豪を相手に全て一本勝ちしたのは彼女だけという事実からは,それがいかに困難なことであるかが判ります.

 北京オリンピックの決勝では,宿命のライバル,フランスのデコスと決勝戦で因縁の対決となりましたが,試合開始後約1分過ぎ,デコスがしかけた大内刈りをすかして,芸術的と言ってもいいほどの見事な内股をかけて投げ飛ばし,前人未到の偉業を成し遂げた時は,見ていた私も鳥肌が立つほど興奮し,胸に熱いものさえ込み上げました.

 今や柔道は世界的なスポーツとなりましたが,まともに組み合うことを避けたり,かけ逃げばかりする外国人が多いのをみて違和感を感じ始めていた私を含む多くの日本人は,日本柔道の真髄を見せてくれた彼女の柔道を見て溜飲を下げたことと思います.

 彼女の引退のきっかけは,怪我やモチベーションの低下によるとのことですが,いずれにしろ,一事にとことん打ち込んだ人間の引き際としてすがすがしさ,潔さに溢れ,どこまでも一本勝ちにこだわった彼女の柔道そのもののようでした.

 ところで女子柔道といえば,北京まで過去5回のオリンピックに出場して金メダル2個を含み全てメダルを獲得するという快挙を成し遂げた,あの谷亮子選手は今回どういうわけか「政治でも金」とのことで民主党から立候補し,これまた見事に当選しました.
 しかし一方で,なんと2年後のロンドンオリンピックにも出場を目指すとのこと,これにはさすがに多くの国民の顰蹙を買ってしまったようです.不世出の柔道家としてせっかく得た名声が,残念ながら汚されてしまったのではないかと感じたのは私だけではないでしょう.

 今まで柔道一筋で政治の世界などとは無縁であったはず,これから本当に政治の世界に身をおいて国民のために働くのであれば,どう考えても同時にオリンピックを目指す余裕などないはずです.それではオリンピックという,一握りのスポーツ選手にしか与えられない最高の舞台を目指して人生の全てを賭けて頑張っている人々に失礼ではないかと思うのは,私だけでしょうか?
 政治家とて限られた人間しかなれない職業なのですから,命を賭して頑張るくらいのことはしていただかないと困ります.いくら人並み外れた努力の人と称される彼女でも,さすがに二兎を得るのは無理があるのではないでしょうか?

 その政治家についても,今の多くの政治家を見ていると,国家や民のために粉骨砕身して働くというよりは,口を開けば選挙,選挙とかしましい.その選挙とて,小選挙区で審判を下されたのに比例で復活など,どう考えても庶民感情からかけ離れていることなのですが,そんな姑息な(というと叱られそうですが)手を使ってでも身を引かないのを見ていると,本当に見苦しくさえ感じ,潔い引き際とはおよそかけ離れているのではないかと思ってしまいます.

 では,かくいう私などはどうでしょうか?
 2年前,意を決して四半世紀にわたる勤務医生活を捨てて開業,医師であることに変わりはないのですが,これが内科医と違うところで,外科医にとってメスを捨てる(今でも少しは手術をしているものの)ことは,頭ではわかっていても全く未練がなかったいえばウソになります.

 開業が決まって,当時勤務していた神戸労災病院の院長に退職を打ち明けたとき,整形外科医でもあった先生は私の新しい船出を祝福してくださったものの,「先生,外科医が引退する時というのは寂しいものですよ.2年くらいは悩むかもしれませんネ」としみじみ話されました.
 もちろん開業医としての生活は,それなりに充実しており,経営も少しずつ安定してきたこのごろは,楽しくさえあります. 
 それでも,今でも時々,手術をしたり,手洗いをしている夢を時々みるのは,開業後2年以上経った今でさえ,そう簡単に未練が全くなくなっているわけではない証拠なのでしょう.

 人間というものは,新たに事を始めたり活躍したりすることよりも,実はそこから自分や周囲が納得できるような引き際を決めることの方がよほど困難なのかもしれません.
スポンサーサイト
comments
. コメントの投稿
  • コメント
  • パスワード (入力すると、コメントを編集できます)
  • 管理者にだけ表示を許可する
この記事のトラックバックURL:http://ohkado.blog25.fc2.com/tb.php/115-532c8759
. プロフィール

Dr.Ohkado

Author:Dr.Ohkado
神戸市中央区新神戸駅ちかく,神戸芸術センタービル内医療モールにある循環器科を主とする開業医です。
徒然なるままに,日々考えていることをエッセイとして書き綴っていきます.
ご意見下さい.

. 月別アーカイブ
. カテゴリー
. ブログ内検索
. ブロとも申請フォーム
. QRコード
QRコード