Dr.OHKADO's Blog

. 涓滴岩を穿つ(けんてきいわをうがつ)

 美しい桜の咲き誇る中,若い人たちが気持ちも新たに一歩を踏み出す季節となりました.

  しかし先日,行きつけのヘアーサロンの奥さんがカットしてくれながら言われるには,毎年この時期若い人たちを雇っても,仕事の大変さや内容への不満,時には何とホームシックで,半分くらいの人が1年もしないうちに,驚くほど簡単に辞めてしまうとのことでした.

  ところで少し前,あのホリエモンが,寿司職人が一人前になるのに飯炊き3年握り8年と言われるような長い修行を積まなければならないというのは馬鹿げている,効率的に教えれば数ヶ月で一人前になれる,というような意見を述べていました.

  長く修行を積んだからといって誰しもがミシュランの三ツ星を授かるような一流寿司職人や料理人になれるわけではないという意味では,確かに一理あります.
それに特にこういった世界で抜きん出るには,何よりも天性のセンスや味覚が必要でしょう.

  しかし,そうであるなら,極端なことを言えば,先ごろ世界最強の囲碁棋士を打ち負かしたことで話題になった,昨今驚異的な進歩を遂げているAI(人工知能)とやらに学習させれば,世界中どこでも最高の寿司が食べられるようになるかもしれず,そうなれば寿司職人そのものが不要になるでしょう.

  また,あらゆるワインのデータをデータベース化してしまえば,非凡な才能で数多のワインの味を見分けるソムリエの出番もなくなるかもしれません.

  医療とて例外ではないでしょう.医療に関するあらゆる最新データを蓄積しておけば,コンピューターが疾病を高い確率で診断してくれるでしょうし,これまた急速な進歩をとげているda Vinciのような手術用ロボットが更に進歩すれば,手術も完全無人化になり,医師が失業するなどということもまるっきり絵空事ではなくなるのではないでしょうか?

  つまりどんな分野でも,単なる技術と知識だけなら短時間で効率的に教える方法がいくらでもあるでしょうし,結果だけを追い求めるのならば,人間よりコンピューターの方が確実なのは疑う余地もありません.

  でも寿司職人もソムリエも医師も,いわゆる職人といわれるひとたちの仕事の重要なことは,生身の人間を相手にしているということです.
  そこまで至るための長い修行,その過程で得られた,一見本業とは関係ないかもしれない様々な人生経験,少なくとも現時点では人間しか持てない繊細な感情,感性,そういったもの全てをひっくるめたものが大事なのではないか?つまり,その技術や知識だけでなく,人をもてなしたり癒したりする「心」とか「場」とでもいうものを提供する仕事なのです.

  話が跳びますが,シリアでISによって破壊された世界遺産のパルミラ遺跡を復元するという計画が持ち上がっているそうです.
しかし私たちは,悠久の歴史の中で風雪に耐えて残ってきたものの中にこそ,遙か昔の祖先に想いを馳せたりロマンを感じるのであり,どんなに精巧に復元しても,そこに歴史の重みはないのです.

  人生や仕事も歴史と同じことではないかと思います.
 つまり,どんな分野であれ,その道で一流になれるかどうかは別としても,長く継続するということに意味がある,そして失敗や苦労を繰り返しながらも継続することによってしか得られないこともあるということです.

  ひと昔前の時代とちがい,我慢とか辛抱とか苦労といった言葉は,ともすれば陳腐なものと見なされがちな時代になってしまいたした.
  社会に出て間もない新人たちが,自分にあった仕事がないとか,自分探しの旅に出るとか,パワハラされたなどといってすぐ辞めてしまい転職を繰り返すことが珍しくありません.
  しかし,関西のオッちやん風に言えば,「そもそもな,まだペーペーのあんたに何が出来るっちゅうねん?自分にあった仕事?何も出来へんくせに,ようそんな甘えたこと言うとんなぁ.まずは自分が仕事に合わせろや! 雑用でも何でも,自分のため,そして世のため人のためと思ってやってみぃや.せめて3年,いや2年でもええから石にしがみついてでも頑張ってみぃや.そしたら誰かきっと,こいつは大した奴やなあって認めてくれるわけや.それが仕事ってもんとちゃうか?」ということでしよう.

  今の世の中,ともすれば個性,自由,成果主義などという言葉ばかりが跋扈し,地に足をつけて地道に踏ん張り艱難辛苦を乗り越えていくという姿勢が疎かになっているような気がします.
 もちろん,不景気,格差,貧困,少子化,非正規雇用の増加等で先の見えないこの時代,個人の姿勢だけを責めるのは酷だとも思いますが,石の上にも三年とか,涓滴(けんてき)岩を穿(うが)つといった言葉の精神は忘れたくないものだと思います.


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Dr.Ohkado

Author:Dr.Ohkado
神戸市中央区新神戸駅ちかく,神戸芸術センタービル内医療モールにある循環器科を主とする開業医です。
徒然なるままに,日々考えていることをエッセイとして書き綴っていきます.
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