要らぬお世話

2月も後半になり,三寒四温の日々です.

 さて,クリニックに通院中のある患者さんは,狭心症でカテーテル治療を受けられ,その後アスピリンという薬を飲んでいました.アスピリンは,治療で留置したステントが詰まってしまうのを防ぐための極めて重要な薬で,生涯にわたって服用しなければなりませんが,歴史も古く安全性も高い薬です.

 ところが,ある日クリニックを受診した彼女がいうのです.
 「先生,あの薬はもうやめました」と.
 びっくりした私が理由を尋ねると,この薬は危ないので飲み続けるととんでもないことになるからやめた方がいい,と知り合いに言われ,その「アドバイス」に従ったとのこと.ちなみにその知り合いとやら,医療関係者でも何でもないようでした.
 私の気持ちが萎えたのは言うまでもありません.私との信頼関係の浅さ,あるいは私の説明不足も一因だったかもしれませんが,悪質とも言える「アドバイス」により,その患者さんは命の危険にさえ晒されたと言っても過言ではありません.

 別の例ですが,ひどい下肢静脈瘤で当院を受診され,是非治したいとのことで手術を決心されたある女性が,突然手術をキャンセルされました.その理由を聞けば,やはり以前他院で同じような手術を受けた知り合いから,めちゃくちゃ痛かったなどと散々脅かされて急に怖くなったとのことでした.

 しかし似たような例は,毎日数多くの患者さんをみていると,決して珍しいことではありません.

 特にご婦人方などは,井戸端会議で色々と知恵を授けられるようで,薬にしても,知り合いが飲んでいる薬の方がよく効くみたいだからそれに替えてほしいというのならまだしも,副作用だなんだと散々脅かされて自己中止してしまうかと思えば,健康食品やサプリなら安全と勘違いして,勧められるまま山のように飲んでいることもあります.

 これはテレビの健康番組やインターネットの通販サイトなどに溢れかえる怪しい情報の数々も大きな原因かもしれませんが,とにかく周囲の雑多な情報にあまりにも惑わされていることだけは確かです.
 どこで仕入れたのか,妙な情報をネタに要らぬお世話をする周囲の人々も問題ですが,それをいちいち間に受ける人のいかに多いことか!

 もちろん,周囲の人の多くは善意で教えてくれているのだと思いたい.でも不確かな情報が却ってとんでもない迷惑をかけてしまうこともあるのだということです.

 いつでもどこでも,あらゆる情報が簡単に手に入る便利な時代とはいえ,少なくとも医療情報に限っては,半分くらいはいい加減な内容だと思った方がいい.それは,多くの情報が個人の経験に基づいているが故で,万人に当てはまるわけではないことは少し冷静になればわかるはずです.
 健康食品やサプリの宣伝でも,画面の端っこに,どういうわけか見えないほど小さな字で(これがセコいのですが)「個人の感想です」などと書いてあるのと同じです.これでは,視聴者の多くが眼の悪い高齢者であるのを知った上でわざとそうしているのかと訝られても仕方ありません.

 ただ,我々医療サイドもえらそうなことはいえません.

 最近,SGLT2阻害薬という糖尿病の新薬が世に出ましたが,過剰に摂取した糖分を尿中に出すことで血糖値を下げるという,従来とは全く発想の異なる薬です.その機序がゆえに明らかに体重が落ちるので,メタボや肥満が原因で糖尿病になった若い人などには朗報なのですが,やせた高齢者や腎機能の悪い人が使うと脱水などの重篤な副作用が出るため,非常に慎重に使われるべきとされています.
 ところが,ある美容外科などのホームページの中には,糖尿病薬としてではなく画期的なやせ薬として紹介し,しかも自費で高額な値段で売ったりしているところがあるとのことです.
 これは,医療機関であることを利用して切実に痩せたいと思っている人の心につけこむという点で,犯罪といっても過言ではなく,同じ世界の人間として情けない限りです.

 これだけ情報過多になったこの時代,真に正しい情報だけを得るというのは,医療に限らずなかなか難しいというのが正直なところかもしれません.
 患者さんたちには,根拠の希薄な情報に振り回されないように望む一方,医療側としても,彼等がまず最初に気軽に相談してくれるような信頼関係を築くように努め,かつ正しい情報を発信していかなければならないとも思います.


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