せちがらい時代

2月になり,日本各地で数十年ぶりの大雪が降るなど,非常に寒い日が続いています.年初までは全く流行の兆しを見せなかったインフルエンザが,今年はワクチンの効果がそろそろ切れるのではないかと案ずる今頃になって猛威を振るいだし,クリニックでも1箱10人分の検査キットが跳ぶようになくなっていくほどです.

さて,日本で個人情報保護法ができたのはつい最近のことですが,昨今は特に,個人情報に対して誰もがとんでもなく神経質になっている,そしてこの言葉を金科玉条の権利のごとく振りかざすような風潮がはびこっているような気がします.

たとえば,テレビの画面で,最近やたらとモザイクが増えているような気がしているのは私だけではないのではないか?

インタビューなどの場面で被害者や犯罪者の顔にモザイクをかけたり,音声をおなじみの奇妙な甲高い声(志村けんの「バカ殿」の声のような(笑))に変えたりすることは,ずっと以前からありました.
けれども最近はそれがエスカレートして,たとえば本人が同級生や同僚などと映っている集合写真が出る時でさえ,本人以外は別に悪いことをしたわけでも何でもないのに,全部モザイクがかかっているのが当たり前になっており,なにか,心霊写真でも見せられているようで,ものすごく異様な感じがします.

それから,ある学校の生徒が急病で入院し,心配して駆け付けた担任の教師が病院の受付で病室を訊くと,個人情報だから教えられないと言われ面会出来なかったとか,多数の犠牲者が出た事故があった時に,家族から病院に入院者の安否を照会したところ,家族なのにもかかわらず,個人情報だから教えられないと回答されたとのこと.

もちろん入院患者さんの個人情報を守るというのは当然のことで,病院に落ち度はないと言えばないのでしょうが,なんともやり切れない話ではないでしょうか.

最近は,児童の連絡網はおろか名簿さえ作らないとか,卒業アルバムに写真を載せていいかどうかいちいち親の許可を取るとか,他の生徒も映るので卒業式のビデオ撮影禁止だとか,そんな学校も増えているとのこと.
そこまでするか?と呆れてしまいます.

そのうち,卒業アルバムなんか,クラス写真も学校行事の写真も,自分の顔以外はすべてモザイクがかけられていて,あとで見ても誰が同級生だったか皆目不明!なんてことになりかねないかも(笑).

病院でも,待合で患者さんを名前で呼ばずに番号で呼ぶところも珍しくはなくなりましたし,病室のネームプレートをはずしたところもあるとのこと.
でもこれでは逆に医療事故をふやすことにならないか?と危惧してしまいます.

でも,それに引き替え,個人情報という観点からは,医師ほどこの対極を突っ走っている職業もないのではないかと思います.公共の利益に資するべき職業ですから,やむを得ないといえばそれまでですが,顔写真はもちろん,経歴から連絡先まで,はっきり言って個人情報などあってなきが如しです.

特に私のような苗字は非常に珍しいですから,ネットで検索すればあっという間に個人を特定されてしまいます.
悪いことなんか絶対にできやしません(笑)

投資目的のマンション販売や金融商品の勧誘電話を受けたことのない医師はいないと思いますが,これこそ個人情報が垂れ流しになっている最たる証拠です.いきなり若い男性からいやに馴れ馴れしい声で電話がかかってきて,「実は,東京は有楽町駅の近くにですねえ…」なんてペラペラと切り出したとたん,「あ,全く興味ないんで」と言って丁重に?お断りするようなことは今でも時々あります.
最近はこの手の電話にもすっかり慣れてしまったので,「先生の今後の資産形成のためにですねえ…」などと言われると,「いやいや,もうこれ以上の資産は要りまへん.資産があまってあまって使いきれへんのですヮ.土地が100,000坪,自家用ジェット3機にクルーザーが2隻,宝石が総額30億ほどでっしゃろ,あとねえ,北新地の有名クラブ20件ほどねえ,あれ全部ワテがオーナーだっせ(笑).それと,USJ知ってはりますヮなあ.あれもね,もうすぐワテのもんになりますヮ.それよりあんた,ワテのことより自分の資産のことでも心配されたらどうでっか?」とでも答えたくなります(笑).

話しがそれましたが,とにかく個人情報を守ることが重要であることは論を待ちませんし,特に私のような医療従事者は,膨大な数の患者さんたちの情報が漏洩することがあってはならないので,非常に注意するのは当然です.

けれども,上述の話ではありませんが,最近は個人情報という言葉ばかりが独り歩きして,なんでもかんでも過剰に反応しているこの風潮,なんともせちがらい世の中になったものだと思います.

ここ最近,コンビニや居酒屋のアルバイト従業員がくだらない悪ふざけをしてSNSに写真をアップして拡散してしまい,閉店に追い込まれるほどのトラブルになっている事例が後を絶ちませんし,また最近問題となっているリベンジポルノでは,ついに逮捕者まで出たとのこと.

どうしてそんな取り返しのつかないことをやってしまったのかと訊かれると,彼等の発する大概の答えはこうです,「こんなに大事になるとは思わなかった」.
私に言わせれば,「はあ?ちょっと待ったれや,お前はどアホか?ネットに載せたりしたらどんどん広がることぐらい,今どき幼稚園児でもわかるやろ?!」と突っ込みたくなります.

つまり,個人情報をうるさくいうのも,特にインターネットの高度に発達したこの時代,こういう馬鹿な(と敢えて言わせていただきますが)輩がはびこっているから,やむを得ないことなのかもしれません.

個人情報をどのように扱うか,どう適切に運用するかは,法律で縛ってもその限界があり,結局は人間のモラルの問題だと思います.
言い換えれば世の中,いつの時代も悪いことを考える人間が必ずいるわけで,個人情報についても厳しくせざるを得ないのはやむを得ないといえば得ないのでしょう.

でも私のように,ガリ版刷りの手書きのクラスの緊急連絡網が重宝していた,あの「三丁目の夕日」の時代に子供時代を過ごした世代にとっては,なんともせちがらい,はっきり言えば,ある意味「嫌な」時代になったものだと思います.



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