てんこ盛りよ,さらば

 ご高齢の患者さんの中には,まさにてんこ盛りで薬を処方されている方が多々おられます.
 薬手帳を見せていただくと,軽く15種類以上は飲んでいて,これだけでおなか一杯になってしまうのではないかと思ってしまうこともしばしば! 

 ところが,それぞれどういう理由で飲んでいるのかと尋ねると,よく判らないけれども先生がくれるから飲んでいる,と言う答えの多いことにもまた驚かされます.
 高血圧や高脂血症などの生活習慣病や慢性疾患の薬が多いようですが,それらを時には複数の医療機関から次々と処方され,そのまま継続されていることに加えて,患者さんが自身が医者任せで処方内容や必要性について関心がないことも拍車をかけているようです.

 高血圧には降圧剤,高脂血症にはコレステロールを下げる薬,糖尿病には血糖値を下げる薬,骨粗しょう症には骨密度を上げる薬,…と,最近の医学のめまぐるしい進歩により次々と新薬が開発されています.
 最近では,エビデンスに基づいた治療がどの医療機関でも受けられるように,多くの病気の治療方法にはガイドラインなるものが作成されるようになりました.
 たとえば高血圧ひとつとっても,年齢が○○で腎機能が○○らば,○○系の降圧剤を投与して,○○mmHgまで血圧を下げるのが望ましい,というように,事細かに記載してあります.

 つまり理屈の上では,ガイドラインで治療が必要となれば,患者さんが拒否しない限りはすべて治療の適応となるわけです.

 しかし,どのガイドラインにも,病気の治療を何歳まで行うべき,などという基準は書いていません.
つまり,90歳であろうが,100歳であろうが,病気がある限り薬を中止する理由はないわけです.
 しかも抗生物質や抗ガン剤などをのぞいて,多くの病気の治療薬は根治治療ではなく,あくまで対象療法ですから,なおさらです.
 
 医学の進歩は人間の平均寿命を驚異的に伸ばし,人生90年時代ともいわれるようになりましたが,それでも年齢を重ねれば次々と悪いところが出てくるのは当然です.それに対して最低限の日常生活が送れるようにメンテナンスすることが医療の目的であり,誰しもがその恩恵にあずかる権利を有していることを,誰も批判することはできません.

 しかし…,私は最近つくづく思うのです.

 ひとつには,自分の健康状態がどういう状態なのかに関心がなく,ただ医師から薬を与えられるから飲んでいるというのはいかがなものか?もちろん,医師のほうもきちんとした説明義務があるとはいえ,せめて自分が飲んでいる薬の内容くらいは意識してもいいのではないか?

 それともうひとつ…,コレステロールや血糖値を下げることが,動脈硬化の抑制によって重大な合併症の発生を防止することは証明されているとはいえ,80歳や90歳になってまで,全員一律に厳密にコントロールする必要があるのか?

 こんなことをいうと,「医師という立場にありながら,なんちゅうことを言うんや?」と,ご批判を頂くかもしれません. 

 もちろん私は,患者さん自身が自分の健康管理に人一倍気を配り,いつまでも人に迷惑をかけないように最後までぴんぴんころりでいたい,あるいは100歳までも長生きしたいと言われるのであれば,それを否定するつもりは毛頭ありません
 それにその薬がないと生命をおびやかされるような人,症状が悪化してするような場合は,もちろん飲む必要がある,というよりそういう場合はご自身が飲む理由を判っているわけですから,話は全く別です.

 しかし,自分がいったい何のためにその薬を飲んでいるのか関心のない人や,高度の認知症で自分の病気の理解はおろか,身の回りのことさえできなくなっているような人や,健康や長生きに全く執着しない人が,医師に処方されるがままにコレステロールや糖尿病の薬を飲むことにいったいどれほど意味があるのか?と思うのです.

 以前書いた「胃瘻」についてのブログで.寝たきりの患者さんをただ「生かす」だけのために胃瘻を作ることに対して疑問を呈しましたが,薬も同じことだと思うわけです.

 そうは言っても実際には,この患者さんは薬の内容が全然わかっていないなあ,とか,どう考えてもこの先そう長生きは出来ないだろうなあ,などと感じても,大事な薬を中止するわけにはいきません.
 だから自分が最初に投与する場合は,できる限り患者さんにその必要性を納得して頂いたうえで,必要最小限の処方として,「てんこ盛り」にだけはしないように心掛けてはいます.
 
 なんて格好の良いことを書いてしまいましたが,自信ないなあ…(-_-;)
 


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喘息かな?みたいな~

最近テレビで見た街角インタビューの一場面,若い女性がレポーターの質問に答えています.

「3年ぶりに自民党政権になりましたが,あなたは新しい政権に何を期待しますか?」
「景気とか,よくなってくれるといいのかな?みたいな~」
 
 「…とか」や「…のかな?」や「…みたいな」というような言い回しは,特に若い世代の間で最近繁用されるようになった感がありますが,正直私なんぞは,あんまり多用されると,なんかくらくらと眩暈がしてしまいそうになります(笑)
 
 自分の意見をはっきり述べる自信がないからこういう言い方になってしまうのか?あるいは語調を和らげているつもりなのか?…
 まあ,言葉というものは時代とともに変遷していくもの,それほど目くじら立てることもないのかもしれませんが,曖昧な表現であることだけは事実です.

 しかし,これが患者さんとの対話となれば,捨て置けません.

 仕事がら,医療機関に対する患者さんの要望や不満の内容はいつも気になりますが,スタッフの応対や医師の技術などと並んでいつもランキングの上位を占めるのが,治療や病気の説明のようです.

 患者さん達に,それまでどんな治療を受けていたのかとか,どういう病気と診断されたのかとか,なぜこの薬を飲んでいたのか,などと質問する時に往々にして感じるのは,患者さん達が,いかにそれらにはっきり答えられないことが多いか?ということです.

 この原因には,患者さん自身の理解力や治療に対する姿勢もさることながら,医師側の説明の仕方にも一因があることが多いようです.

 たとえば,風邪の後の咳が長引いている患者さんを診る時,はっきり診断がつかないことも多々あります.

 そんな時,「うーん,おそらく,喘息かな?みたいな~」と説明する医者はまさかいないでしょうが(笑),「喘息っぽいですね」という言い方はついしがちだと思いますし,実際他院で「喘息っぽいっていわれました」という患者さんも少なくありませんし,さらに私が,ではその医療機関での治療や薬の内容はどうだったのか?と訊いても,思わず頚をかしげる方々も多い.

 これほど情報化社会になったとはいえ,やはり一般人は医療の素人です.6年間も医学部で勉強して国家試験に通り,毎日の様に患者さんを実際にみている医師に,ちょっとやそっと焼刃的で勉強したからと言ってかなうわけがないわけですし,そうでなければ我々医療のプロの立つ瀬がありません.たとえば,先日のブログにも書いた,「風邪のウィルスには抗生剤は効かない」というような,医療従事者にとっては単純な常識のようなことでも,実は一般人は意外なほど知らない.

 でもだからこそ,医療の素人である患者さん達に,できうる限り明確に,そして判りやすく説明することが求められるのです.

 その意味で「喘息っぽい」などという表現は,絶対にやめた方がいいと思いますし,私個人としてもまず使いません.

 なぜならば,患者さん達は,そもそも「喘息」とはどういう病気なのか,そしてそれが「風邪」や「気管支炎」とどう違うのか,ということからして明確には判らないのが通常でしょう.
 なのに,その判らないところに加えて,さらに「…っぽい」などと言われてしまえば,判らなさにますます拍車がかかり,何かけむに巻かれたような,釈然としない気持ちで診察室を後にするしかないのではないか?と思うわけです.素人受けする言葉を使うことが,却ってあだとなっているのです.

 ならば,どうするか?

 私は,医療における説明に王道はない,でもそれほど難しいことでもないと思います.
 なぜならば,医療というものは,芸術や文学などと違って極めて客観的,論理的なものであり,むしろ極めて他人に伝えやすい分野だからです.
 
 上の例でいえば,少なくとも,「長引く咳」の原因はどういうものが考えられるのか,そしてなぜ「喘息」が考えらるのか,そして「喘息」とはどんな病気なのか,どういう治療をしてどのような結果が予想されるのかを説明すればよい.
 ただ重要なことは,はっきり「喘息」と確定できない時ですが,その場合は「喘息っぽい」などとはいわず,「症状からは喘息かもしれませんが,今は断言できません.他にも…の病気が考えられます.だから今回は…の薬を使って経過をみます.でも一週間しても治らなければ必ず再診してください」とでも言えばいいわけです.

 その上で,お年寄りならばそれらを紙に大きく書いて,「ご家族にも見せてください」とでも言ってお渡しすればより親切なのではないでしょうか?

 もちろん混み合っている時などには,実際短い診療時間でここまで説明するのは困難なことも多く,正直かなりはしょってしまうこともあります.
 でもやっぱり,患者さんに理解してもらうまで,口がしんどくなっても(笑)しゃべり続ける必要があるのではないか?「医者はしゃべるのが商売」とは,決して悪い意味ではなく,いい意味で的を得た言葉だと思います.

 最後に付け加えるならば,一方的に説明するだけではなく.やはり質問を気軽にしてくれるような雰囲気を作るのも同様に重要なのはもちろんでしょう.

 さて,偉そうなことばかり書いてしまいますが,実際私はどこまでできているか??
 どこかで患者さん達に「おおかど先生の説明は全然意味不明でわからへんヮ」などと愚痴られていなければいいのですが…(笑)