Dr.OHKADO's Blog

. 風邪あれこれ

10月もいよいよ終盤,秋も深まるにつれ,例年にたがわず風邪(かぜ)の患者さんも増えてきました.

 ところで,風邪が古今東西最もありふれた病気であることは間違いないでしょうが,ではいったい「風邪」とはどんな病気なのかと尋ねられると,答えに窮してしまう人も多いかもしれません.

 風邪,医学用語で「風邪症候群」や「急性上気道炎」といわれるものは,その名の通り「上気道(鼻腔・咽頭・喉頭)の炎症が起こり,咳・痰・鼻汁・咽頭痛・発熱・倦怠感などの症状がおこるもの」とされます.

 しかし,風邪と診断するには,癌や心臓病のように確定診断できるような特別な検査方法や診断基準があるわけではなく,咳や鼻汁といった症状や経過を踏まえ,肺炎などの重篤な病気を除外した上で,「風邪でしょう」と推測するわけです.
 だから患者さんに「風邪ですか?」と訊かれたときに「風邪です」と断言できる医師がいるなら,私からみればむしろ「すごい名医やな!」などとさえ思ってしまいます.

 ところで,風邪とはまったく無関係に見える症状なのに,なんでもかんでも風邪にしたがる患者さんもいます.
 その典型が,「おなかの風邪」.
 でもそんなものはありません.これは要するに急性胃炎や急性腸炎であり,その俗称でしょう.風邪をひいてそれが胃や腸に及んだと思う人もいるようですが,風邪を起こす病原体と胃腸の病気を起こす病原体は全く異なります.だから風邪をひいて下痢や腹痛がきたとしても,風邪で抵抗力が落ちて腸内の悪玉大腸菌が増えて下痢になった,というような可能性はあるにしても,直接の関係は全くないわけです.

 それから,これだけありふれた病気なのに,どうしていまだに理解されていないのか?と思うのが,「風邪ひいたので抗生物質を出してください」という患者さんのいかに多いことか!ということです.

 病原体を大きく分けると細菌(バクテリア)とウィルスに分けられますが,風邪を起こす病原体はほとんどがコロナウィルスやライノウィルスといったウィルスです.これらをやっつける薬物,つまり抗生物質(抗ウィルス剤)は現時点では存在しません.
 通常の抗生物質は細菌をやっつけるものですから,風邪には全く効果がないわけです.

 もちろん,扁桃腺がひどく腫れたり高熱が出ている場合や肺炎や気管支炎になっている場合は,細菌も混合感染している場合も多く,この場合は抗生物質が効く,というよりむしろ必要な場合も多々あります.

 しかしほとんどの風邪には抗生物質は効かない,だから治療はあくまで対症療法,つまり症状を抑える薬を飲みながら,自然に治癒するのを待つだけというわけです.
 その上抗生物質を多用すると耐性菌が増えて,いざ必要な時に効かなくなってしまうという懸念もあります.

 患者さんの中には,1日も早く治したいので風邪に効く特効薬の注射をしてください,などという人もいますが,そういう要望には実際のところは困ってしまいます.そんなものがあれば私が知りたいくらいです.
 風邪に効く注射,などと銘打った注射を行っているクリニックもあるようですが,要はビタミン注射で,確かにエネルギー産生が活発になるので元気にはなりますし,私のクリニックでも適宜使いますが,それとて別に特効薬というわけではありません.

 でも,患者さんから「いつも抗生物質を飲んだり注射をしてもらうとたちどころに治る」なんて言われてしまうと,医者より経営者としての考えが頭をよぎり,あんまり拒否してクリニックに受診してもらえなくなるのも困りますので,実のところは「まあ,希望通りにしておこうかな」なんて建て前を優先してしまうことも多々あります(笑)

 でもこんな誤解は風邪に限ったことではありません.これだけ情報化社会になっても,たとえば「降圧剤を続けて飲むと認知症になる」とか「漢方薬は副作用がないが,長期に飲まないと効果がない」とか「コレステロールを下げすぎると癌になる」とか,間違った医学知識をかたくなに信じている人々がいかに多いかということを痛感する毎日です.

 話変わって,先日産業医をやっているある会社でインフルエンザや風邪の話のレクチャーをしていた時のこと,ある社員から,「風邪の原因がウィルスであるならば,なぜ他の病気やインフルエンザのようにそのウィルスをやっつける薬やワクチンが出来ないのか?」という質問を受けたのです.

 この素朴な疑問は,私とて今まで考えも及ばなかったものであり,思わずうーんとうなってしまいました.
 
 風邪はそれほど重篤な病気ではないからワクチンや特効薬を造っても売れないからか… はたまた,もしワクチンができて風邪という病気がこの世からなくなってしまったら,多くの医療機関がおまんまの食い上げになってしまうから,誰かが裏から手を回して邪魔しているのか…そんなことを本気で考えてしまいましたが,本当の答えはわかりません(笑) いずれにせよ,風邪の特効薬ができたら,ノーベル賞は間違いないでしょうね! 
 
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. まぼろしの大発明

 先日,京大の山中伸弥教授がIPS細胞の研究で今年のノーベル医学生理学賞を獲得したことは,政治も経済も八方ふさがりの我が国にとって,久しぶりに明るいニュースとなりました.

 もともと整形外科医をめざしていた山中教授は,あまりにも手術のセンスがないことを自覚し,臨床医の道をあきらめて基礎医学の道に転向,留学先の米国で行った研究が今日の成功の礎となったとのことです.

 山中先生などと比較するべくもありませんが,私も20年以上も前の2年間,臨床を全く離れて米国ピッツバーグ大学で基礎研究を行う機会に恵まれました.

 私に与えられた研究テーマは,心臓移植に使用する新しい保存液の開発でした.
 
 心臓の手術では心臓を一時的に止めて手術を行いますが,その間心臓自体には酸素が流れないため(虚血といいます),そのままでは心臓は壊死してしまいます.そのため停止している心臓を保護する手段が必要で,今から20~30年くらい前は,その方法(心筋保護)の開発に心血が注がれました.
 心臓手術の驚異的な発展は,心筋保護の発達のおかげといっても過言ではありません.

 また心臓移植では,通常の心臓手術と同様,摘出したドナー(提供者)の心臓をレシピエント(移植を受ける人)に移植するまで長時間の虚血にさらされるため,さらに確実に保護しなければなりません.
 そのため心臓を特殊な保存液に入れて可能な限り良好な状態に保つわけですが.当時の技術ではその時間は5-6時間が限界でした.
 私がいた研究チームでは,ヒスチジンというアミノ酸に注目,ボスの逆転の発想とも言うべきアイデアで,虚血中に心筋細胞が必要とするエネルギーを積極的に産生することによって,保存状態が格段に改善することを発見しました.
 それらを最初はウサギの心臓,次にイヌやサルの心臓を用いて様々な観点から検証,なんと24時間の保存でさえ可能であることを証明したのです.このことは、例えばアメリカで摘出した心臓を日本まで運んで移植することも可能になることを意味し、移植のために多額の費用を投じて海外に滞在する必要もなくなるわけです。

 これは大変な快挙で,米国の一流雑誌に掲載され,地元のテレビ局も取材に訪れ,われわれの開発した保存液,UP solution(ピッツバーグ大学保存液)は,米国での特許も獲得しました.

 残念ながら私は2年の研究期間が終わって帰国となりましたが,ボスはこの保存液を臨床応用するため,米国の製薬会社に売り込みました.
 また,私より少し後にピッツバーグに留学してきた弘前大学のT先生が帰国後,通常の心臓手術にではあるものの,この液を使用して非常に良好な保存状態が得られることを証明してくれました.

 しかし…,残念ながら,夢は夢のままで終わりました.開発した保存液に含まれていたある物質の濃度がFDA(アメリカ食品医薬品局)の基準にひっかかり,そのままでは商品化は困難であるとのことでした.
 
 もちろんこの物質の濃度を変えた新しい保存液を作成して再度検証することも可能でしたが,帰国して臨床医としての仕事に明け暮れる私にそんな余裕はなく,ボスも他大学に招聘されてピッツバーグを離れ,開発に携わったチームは自然消滅となりました.

 また,通常の保存液でも5時間程度の保存であれば問題ないため,実際にはそれほど長時間の保存を必要とするケースも少なく,90年代後半には心筋保護の研究自体がピークを過ぎてしまいました.

 もしもこの液が商品化されていたら,私は大変な大金持ちになっていたかもしれませんが,人生そうは甘くはありません,見果てぬ夢となりました(笑)

 それでも,恵まれた環境の中で一つの研究に没頭することと,そこから成果を出していくことの大変さと楽しさを知ることができたこの2年間は,その後の私の人生をとてつもなく豊かにしてくれたことだけは間違いありません.

 今,日本では理科系離れや海外留学希望者の減少などで,科学技術立国としての地位が危うくなっていると聞き及びます.
 先行き不安なこのご時世,若い人が内向き志向,安定志向に走るのももっともです.
 それでもやり直しのきく若いうちだからこそ,損得勘定や将来のことなど考えず,自分のやりたい研究や勉強にいそしむ期間をぜひ持ってほしいと思いますし,それこそが必ずや人生の糧となり,決して大げさではなく,日本の未来を支えていくのだと思います.
 
また,国はややもするとすぐに結果のでない研究の予算を削りたがりますが,そういっ近視眼的な考えこそが我が国の将来を危うくすることは間違いありません.
もともと日本人は諸外国でも高く評価されているほど非常に勤勉で真面目な民族で,環境さえ整えばどんどん素晴らしい研究成果を出せる潜在能力があり,現に自然科学のノーベル賞の受賞者数は今世紀に入って米国に続き世界第2位,アジアではもちろんダントツトップであることがそれを物語っていると思うからです.

来年以降も,日本人がどんどんノーベル賞をとって,低迷している我が国の復活への起爆剤となってほしいと思います.
 
. プロフィール

Dr.Ohkado

Author:Dr.Ohkado
神戸市中央区新神戸駅ちかく,神戸芸術センタービル内医療モールにある循環器科を主とする開業医です。
徒然なるままに,日々考えていることをエッセイとして書き綴っていきます.
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