fc2ブログ

新たなる海原へ

2022.10.29(21:21)


 今年もはや2ヶ月少し,毎年ながら400メートル走の最後の直線100メートルのラストスパートとでもいうような慌ただしい季節となりました.

 さて,今や医療機関には,他の分野と同様,急速なデジタル化の波が押し寄せています.電子カルテはもちろん,診療報酬のオンライン請求も当然のようになり,コロナ禍が始まってからはオンライン診療も普及しつつあります.

 そして今なによりもホットな話題は,オンライン資格確認です.
 マイナンバーカードに保険証を紐づけることにより,患者さんの資格確認が正確かつ容易になること,さらに今後薬剤情報や健診,既往歴等の情報が紐付けされれば薬剤の重複ミスの防止,問診の簡素化などが期待され,また全国どこの医療機関に受診しても最低限の情報が共有されるので,医療者側,患者さん側双方にとってwin-winであるというのが謳い文句です.

 ただそのためには業者に依頼してカードリーダーや専用のパソコンを使った通信システムを構築せねばならず,経費も30万円を軽く超えます.
 その上マイナンバーカードや,ましてや保険証との紐づけの普及が予想外に遅れているのにどこまでニーズがあるのかという猜疑心も手伝って,多くの医療機関が導入を躊躇していましたし,正直,当院も例外ではありませんでした.

 なんとしてでもデジタル後進国の汚名を挽回したい国は,導入にはほぼ満額で補助金を出すという方針ですが,それでも遅々として進まないため,ついに補助金申請の期限を来年の3月までと決定,オンライン資格確認の導入は半ば強制となったわけです.

 私はインターネットなどなかった時代からパソコンに親しんでおり,クリニックのIT化を進めることには抵抗はなく,電子カルテや紙媒体のスキャンニング,クラウド利用等による可能な限りのペーパーレス化はもちろん,Wi-Fiやキャッシュレス決済導入も行い,オンライン診療も少しずつではありますが行っています.便利さももちろんですが,突き詰めれば患者さん,スタッフ双方の利益になります.

 そして残る天王山が,このオンライン資格確認です.しばらく様子を見ていましたが,政府の決定も手伝ってとうとうこの年末に出入りの業者に設置してもらうことにしました.

 さて,この制度については,そもそもマイナンバーカードの普及率でさえまた50パーセントそこそこな上,そこに種々の個人情報を紐付けするということで,多くの国民から不安視する意見が出ていますし,政府のやり方は慎重さに欠きあまりにも拙速であるという声も多いようです.

 もちろん日本は民主主義国家ですから,新しい施策をやろうとすると必ず反対勢力,抵抗勢力がいるのはやむを得ませんし,議論を尽くす必要はあるでしょう.

 しかし私個人の意見としては,奇しくもコロナ禍で露呈してしまった,我が国のデジタル化の恥ずかしいほどの遅れを取り戻すためにも,IT化をどんどん進めるという方針自体は間違っていないと思います.
 日本が今後も国際社会の一員として生き残っていくためには,江戸時代のように鎖国でもするのならばとにかく,第4次産業革命といわれる大波に乗るしかないわけですし,正直今の日本はその波に乗れるか乗れないかの瀬戸際に立っているということです.

 コロナ禍の初期,国民全員への10万円の特別定額給付の時も,あまりにもアナログなやり方で大混乱をきたし,とても先進国とは思えない醜態を世界中に露呈してしまったのは記憶に新しいところです.こういった作業も,国民全員にマイナンバーカードが普及すれば,簡素化と迅速性により,結局は国民の利益に繋がるのではないでしょうか?

 最近は日常生活でも行政の手続きでも,あらゆる場面でスマホを持っていることやインターネットにアクセス出来ることが前提になっています.QRコードを読み込む手段がなければ生活に必要な情報さえ得られないことも多いわけです.

 自分は電子メールを使わずに郵送やファクスや電話だけしか使いません,などといつまでも頑なに主張したところで通用しなくなっていますし,ある程度のITリテラシーがなければ就職さえ出来ません.
 そして何より,うまく利用すればこれほど便利で生活の質を高めてくれるものもありません.

 当院では,産休中のメンバーも含めスタッフ10数人全員がLINEのグループメールを作り,連絡事項や確認事項は全てそれで行い,ときには簡単なディスカッションもLINE上で行っています.重要な情報が瞬時に伝わりますので業務上のミスが減り,報告事項だけのための無駄なミーティングはほぼなくなってスタッフの負担軽減にも業務の質向上にも寄与しています.
 つまり,たかがLINEとはいえ,それを使えることは当院のスタッフにとって必要不可欠なことになっています.

 もちろん高齢者を中心に,いまだにインターネットを使ったことのない人,ガラケーの人,中には携帯電話の所有さえしていない人がいますので,今のような過渡期にはこういったITマイノリティに対するある程度の配慮は必要でしょう.

 また国民のなかには,やはり個人情報の漏洩を危惧する人が圧倒的に多いのも普及を妨げている要因のひとつのようですし,なんといっても多くの国民がこういった巨大なシステムを統括する今の日本政府の姿勢に信頼を置けていないことも大きな要因ではないでしょか?

 旧統一教会の件での某大臣の幼稚な答弁のように,何かの不祥事が生じた時に,恥ずかしげもなく都合の悪いことは露骨に隠蔽しよう,誤魔化そうという姿や,お粗末な情報漏洩事件を見ていると,セキュリティーは万全だと声高く叫ばれても,信頼しろという方がどだい無理だと思います.
 政府も本当に国家あげてのデジタル化を進める気があるのであれば,国民に信頼されるように自らの襟こそ立たさなければならないでしょうし,化石みたいな頭の人間がリーダーシップを取るのだけはごめん被りたいものです.

 世界最高峰のIT先進国として有名な,バルト海沿岸の小国エストニアは,オンラインでできないことは結婚と離婚だけと言われるほどデジタル化が進んでいるようです.
 天然資源もなく,地政学的な問題でロシア帝国等次々と支配者が変わってきたこの国は,たとえ物理的に国家がなくなってユダヤ人のディアスポラのように国民がバラバラになったとしても,オンライン上に国家(e−エストニア)としてのデータを残しておけば,国民皆がつながることができ,再出発出来るということまで考えているとのこと,その覚悟たるや驚きです.
 実はこの国の国民の政府に対する信頼度は,我が国と同じ程度でそれほど高くないとのことですが,このシステムを構築するにあたっては,長い時間をかけて徹底的な透明性と公平性を確保することができるようになったからこそうまく行っているとのことです.
 もちろん人口や国家の規模,そしてなによりも準備期間が全く違いますので単純に比較することは出来ないでしょうが,エストニアには多いに見習うべき点も多々あると思います.


医師 ブログランキングへ





スポンサーサイト




ささやかな応援

2022.09.16(00:09)

 今年もはやもう9月ですが,記録的猛暑の余波がまだ続いているのか,まだまだ秋らしい天候には程遠い日々です.

 お盆には,松本城と安曇野に1泊旅行をしてきました.
 神戸空港〜松本空港間にはうまい具合に早朝と夕方に便があり,フライト時間も1時間少しと非常に便利です.
かねてより訪れたかった国宝松本城は,最近耐震性に問題が見つかったため入場者数を制限している上,午後より雨模様になるという予報で午前中に観光客が殺到したため,天守に入るのに1時間余も並ぶ羽目になりましたが,その威容たるや,予想通り圧巻でした.
 午後は松本市内を観光,宿泊は有名な星野リゾート「界 松本」で感動のホスピタリティー.
 翌日はレンタカーで人気のわさび農園始め安曇野のスポットをまわり,絶品の信州そばも堪能しました.

松本


 以前のブログでも書いたように,コロナ禍以降は海外旅行に行けないこともあって,まだ訪れたことのない土地を地図上で塗りつぶしていくかのように,時間を見つけては日本各地に出かけています.
 旅行は自分やかみさんの趣味ということもありますが,コロナ禍で大打撃を受けた観光地を少しでも応援したいという気持ちも後押ししています.

 コロナ禍前は,全国あちこちで開催される学会に,勤務医の頃から仕事の合間を縫っては年に数回は出かけていましたし,ある意味楽しみでもありました.
 私が出席する循環器系や外科系の学会は会員数も万単位ですから,定時学術総会となると,小さな地方開催都市のホテルは貸切状態のようになり,タクシーなどもまたとない稼ぎ時となりますし,夜は久しぶりに会う旧友や医局の知り合いなどで親交を温める機会になりますから,地元の繁華街もお祭りのように賑わいます.
 
 コロナ禍が始まる少し前,金沢で日本循環器学会総会があった時は,申し込みが遅かったせいもあってか,あれほどの観光都市でもホテルがまったく空いておらず,近隣の富山や福井なら空いているといわれる始末で,結局特急サンダーバードで慌ただしく日帰り参加せざるを得ませんでした.
つまりそれほど全国から一地方都市に人が集まっていたわけです.

 しかし,コロナ禍をきっかけとしたオンライン化の推進は,ビジネスの世界のみならず,学会活動にも大変革をもたらし,現地に実際に出向く必要がほぼなくなってしまいました.そして地方都市にとってはこのことが大打撃になったのは容易に予想できます.コロナ禍前は図らずも我々医療従事者も地方都市の発展に貢献していたわけで,今はその機会さえ激減してしまったということです.

 我が家はふるさと納税もクリニックの節税対策も兼ねて限度額ギリギリまで行っていますが,返礼品への期待もさることながら,やはり旅行と同様の気持ちも働いています.
 各地方自治体は,少しでも地元を活性化しようと,涙ぐましいばかりの努力をしているのが,返礼品に同封された,工夫を凝らした地元のパンフレットなどを見てもわかりますし,微々たるものとはいえ自分達の使ったお金が少しでも地方の活性化に役立っていると考えれば嬉しいものです.

 海外からの入国制限も徐々に緩和されてきたとはいうものの,いつもながら政府のやり方はいまだあまりにも遅すぎます.まさに石橋を叩いて渡らず,「検討すれど実行せず」なのです.
 当院に通っているフランス人の女性が,「だいたい自由を愛するフランス人が添乗員付きなんかで来日するわけないわよね」と苦笑,妙に納得しましたし,日本のやり方は「鎖国」と言われ世界から冷笑されているのは言わずもがなです.

 そもそも,既に国内の感染者数は報告されているだけでも既に2000万人を超えており,未報告や未検査のケースも併せれば実数はそれを遥かに上回るでしょう.そしてワクチン接種率は年齢層に偏りはあるとはいえ,3回接種で65%とまずまずです.

 入国者による感染の拡大を懸念する向きもありますが,彼等にしてみれば,これだけ国内に感染者がいるにもかかわらず厳しい入国制限をすることに何の意味があるのか,お笑い草ではないか?いうのが偽らざる心境でしょうし,私もそう思います.

 このコロナ禍で我が国の危機対応能力の低さやデジタル化の遅れが一気に露呈し,今や一流の先進国などととても恥ずかしくて言えない我が国ですが,意外にも2019年の世界観光開発ランキングの総合順位でトップになるなど,観光産業が国内経済の再活性化の一縷の望みと言っても過言ではないでしょう.
 しかも未曾有の円安,この千載一遇のチャンスを,政府にはゆめゆめ逃さないでいただきたいと思います.


医師 ブログランキングへ


至極の休日,地獄の現実

2022.08.07(22:19)

 先月の連休は,かみさんと車で香川に旅行してきました.
 徳島との県境近くにある「阿賛琴南(あさんことなみ)湯山荘」という,美しい里山に囲まれた別荘的な宿泊施設で,ホテルニューアワジグループが数年前にオープンしたものです.
 徒歩圏には特に大きな観光スポットもないので,自然の静寂の中で心ゆくまでステイそのものを楽しめる場所です.
 眼前に広がる山々の緑を楽しめる大きな露天風呂,味はもちろん目も楽しませる絶品料理,そして癒し系の優しい女性スタッフによる,100分もの全身マッサージと続き,部屋に帰った途端ふかふかのベッドで翌朝まで爆睡となりましたが(笑),極上のホスピタリティで日頃の疲れが癒され,心身共に安らげた一日となりました.

asan2 (2)

asan2 (1)

 さて,一旦落ち着いていたコロナ禍は,予想はしていたものの経済活動の回復と共に再燃し,第7波となってしまいました.

 今回の株は感染力が強くワクチン接種率の低い若年者を中心として感染が急拡大していますが,病原性は比較的弱いためほとんどのケースで数日間の発熱や咽頭痛のみで,症状だけでは通常の風邪とほとんど見分けがつきません.

 発熱外来に登録している当院もキャパを超えてしまいPCR検査のキットも不足気味となっているため検査希望者全員は受け入れられない状態です.

 陽性者が出るとその同居家族全員が濃厚接触者となり得るので,初期のころは全員に検査をしていましたが,今回の株は症状が出ればほぼ感染は間違いないため,家族などは敢えて検査せず「みなし陽性」として保健所への報告のみすることもあります.

 中には夫婦揃って発熱して市販の抗原キットで検査したら案の定陽性だったが,子供もおらず仕事もテレワークで済むのでそのまま10日間ほど自粛していた,という若い夫婦の例もありましたが,彼らを責めるわけには行きませんし,むしろ私はそれでいいと思っています.それにそんなケースは枚挙にいとまがないでしょう.

 マスコミは相も変わらず嬉々として毎日の感染者数を発表しては,先週より何人増えただの,過去最高だのと国民の不安を煽ることに余念がありませんが,実際の感染者数はその2倍,いや,3倍以上いるかもしれず,総感染者数など何の意味もありません.

 実は今の日本の感染者数は,すでにウィズコロナに方針転換した他国と比較しても遥かに多いとのこと,これだけ感染対策に神経質なのに不思議な気がしますが,何のことはない,諸外国ではすでに全数把握を中止したり,無駄な検査をやめたからです.日本のように,心配だから,会社や学校が求めるからというだけで検査をすれば,数が増えるのは当たり前で,その点を全く考慮せず大騒ぎしているわけです.

 政府は今回ばかりはさすがに批判を恐れて意味のないマンボーなどの行動制限を発令していませんし,これだけマスコミがギャンギャンと煽っても帰省や旅行のキャンセルもそれほどではなく,以前のblogにも書いたように,すでに国民の大部分はこの馬鹿げたコロナ狂想曲に辟易して,反旗を翻したのだと思います.

 政府もようやく重い腰を上げて,濃厚接触者の待機期間を短縮したり,すでにパンクしている保健所の負担を減らすため,8月からは重症化するリスクがなければ保健所からの感染者への連絡を省略,健康観察や状態報告を感染者本人に任せるようになったことは評価できます.

 さらに5類に落とすことを検討しだすとのことですが,もう「検討」ではなく明日にでも「実行」してほしいところです.
 5類に落とすと今まで全て公費(つまり保険料や税金)で賄われていた検査に通常の医療と同じく自己負担が発生します.
 しかしもうこの国の社会保障費は火の車,国民皆保険制度の存続さえ危ぶまれている今,そのツケは必ず今の若い人たちにかかってくることを考えると,5類に落とすことにより無駄な検査,念のための検査を抑制する効果になると思われますし,保健所への報告義務がなくなりますので医療機関や保健所の負担も減ります.
 そうすることにより,残念ながら重症になってしまった方々にこそ余裕を持って医療資源を集中出来ようというものです.

 先日大阪市立大学准教授の城戸先生(この先生は政府にとってはアンチなので決して厚労省の専門家会議などには招聘されませんが)が,日本のコロナ対策は諸外国より周回遅れだと述べられていましが,まさにその通りで,今の政府の事なかれ主義,決断力のなさが招いた結果でしょう.

 初期の頃はコロナというものの実態がわからず,世界中が手探り状態だった.しかし2年以上が経過して病態や治療法など様々な知見が集積されて,インフルエンザにおけるタミフルのような気軽に使える特効薬は開発途上ながら,経済活動を停滞させず対処していく方法がわかってきた.にもかかわらず日本のやり方は初期の頃と何ら変わっておらず,世界に置いてきぼりにされているということです.

 果たしてラスト100メートルで猛スパートをかけて他国に追いつくことが出来るでしょうか?残念ながら現状を鑑みるにあまり期待はできそうにありません.



医師 ブログランキングへ

「顔パンツ」の呪縛

2022.07.02(15:54)

 異常気象の影響なのでしょうか,今年すでに6月中旬からとんでもない猛暑の日々が続いています.
梅雨明けも例年になく早く,あちこちで最高気温などの記録が次々と更新され,熱中症による犠牲者もうなぎ登り,この夏が思いやられます.

 コロナ禍は第6波が収まってからはいちおう小康状態で,経済活動もほぼ元に戻り,観光客や留学生の受け入れ制限も少しずつ緩和されています.

 世界各国ではマスクの着用基準がどんどん緩和され,良いか悪いかは別として,もともとマスク習慣がなかった欧米諸国では,街中でマスクをする人がほとんど見かけられなくなったようです.

 我が国でも,感染状態の落ち着きに加え,猛暑の中のマスク着用は熱中症の危険性を高めるということで,政府がマスクの着用基準を緩和,屋外で密にならない時や会話の少ない場面ではノーマスクでも問題ないという方針を表明しました.

 私も今は原則として,公共交通機関に乗る時以外,混雑するような場でなければは外でマスクを着用することはやめました.

 しかしこれだけ暑い日が続いていても,全く人通りのないような場所でさえ汗びっしょりになりながらもマスクを着けて歩いている人たちの多いのを見ると,日本人の国民気質を強く感じさせられます.

 もちろん,マスク着用が感染予防に効果があることは,異論はあるものの概ねエビデンスがありますし,我が国の高いマスク着用率が諸外国より低い感染率に貢献しているということも間違いなさそうです.
 しかし,周りに誰も人がいない広い屋外や,いても一瞬すれ違うだけの状況でのマスクはほのんど意味はないでしょう.もちろんこの時期熱中症の危険が増大するのも言わずもがなです.

 ある中学校での体育の時間に,熱中症予防のために教師が生徒たちにマスクを外すように指示したところ,生徒の方から,「強制ですか?」という予期せぬ反応が返り,返答に窮してしまった教師の姿がテレビで映っていました.

 そもそも入学した時からマスクをするのが当たり前の生活になってしまっていた彼等にとっては,外して素顔を晒すことの方が恥ずかしい,というわけです.
 ある女子生徒は,「誰か仲のいい子が外したら一緒に外す」と言っていました.
 彼女たちにとっては,感染や熱中症そのものの心配より,外して顔を晒すことが他人にどう見られるかということの方が重大な関心事なわけです.考えるとこれは異常事態と言わざるを得ません.

 誰かがマスクのことを「顔パンツ」と表現していました.
 つまり大半の日本人にとって,マスクをすることは感染予防のためというより,着用が当たり前の日常になってしまった,それを外すのは公衆の面前でパンツをずらすのと同じくらい人目を憚る行為に感じるようにさえなってしまったということ,誠に巧い表現だと思います.

 日本は世界でも稀に見る「同調圧力」の強い国です.これは知り合いの外国人誰もが言いますし,私も含めて少しでも海外に住んだ経験のある人間なら多くが感じるところです.

 日本人は何かを行動にうつす時,周囲の人にどう見られているかということを必ずと言っていいほど気にします.

 もともと四方を海に囲まれた小さたな島国で,古来より農耕民族として生活を築いてきた日本人には,共同体の一員として,ひと様に迷惑をかけないようにとか,自分の意見を封殺しても大勢の意見に従うのが美徳というような習慣が骨の髄まで染み付いてしまっていると言われています.

 この国民性は共同作業で何かを成し遂げようとするときには大きな利点になりますし,駅や店ではもちろん,災害時の時でさえ辛抱強く列に並び,決して暴動など起こさない姿や,和を尊ぶ姿は世界中から称賛されているのは周知のとおりです.
 
 しかし今の日本を見ていると,その国民性の負の面が,あまりにも出過ぎていると言わざるを得ません.

 出る杭は打たれる,少しでも他人と違うと妬まれ,誹謗中傷される,些細なことをあげつらわれて批判される.なんでも横一列でないと気に入らない人間が何ゆえかくも増えてしまったのか?

 コロナ初期の頃の自粛警察とやらもその最たる例でしょうし,上述したマスクの話にしても無言の圧力が子供たちの心まで蝕んでいるのではないかとさえ思ってしまいます.

 政治家でも芸能人でも,ちょっとした言動をマスコミが切り取って表沙汰にする,そしてそれを多くの人間が匿名をいいことにハイエナのごとくよってたかってSNS上で完膚なきまでに叩き,果ては自殺にさえ追いやる.
 もちろん,ただ記事が売れさえすればいいという多くの三流マスコミの責任も限りなく大きいと思います.

 最近の日本が経済的にも世界の潮流に取り残されて衰退してしまっていることの一因に,スタートアップと言われる,革新的なアイデアを持った起業や新規事業の立ち上げが他国より圧倒的に少ないことがあるといわれます.これは,資金力の問題もさることながら,やはり,異質なもの,飛び抜けたものを素直に認めたがらないような風土が若い人たちを萎縮させてしまっているのも原因ではないかと思います.

 最近流行りの「多様性」とやらもこれでは全くお笑い草ですし,日本人もいい加減にこの悪しき「同調圧力」の呪縛から逃れないと,復活への道は遠いのではないでしょうか?
 

医師 ブログランキングへ

製薬会社よどこへ行く

2022.06.02(17:30)


 我々医療従事者にとって,製薬会社との付き合いは切っても切れないものです.

 製薬会社の担当MRさん(以前はプロパーと呼ばれていました)が,製品の宣伝も兼ねてスタッフ全員を対象とした院内勉強会を開いてくれることが時々あります.

 先日ある製薬会社の勉強会の当日の朝,その段取りに関するちょっとした質問があったためMRさんに連絡を取ろうとしたのですが,少し早い時間であったこともあってか携帯電話がつながりません.
 少し急ぎの要件だったため,神戸営業所に連絡してみましたが,番号は現在使われていませんとのこと.コロナ禍でリモートワークが普及して営業所の閉鎖が相次いでいると聞いていたので,ならば大阪営業所ならどうかと思い電話すると,なんとそれも現在使われていませんとのこと.
 やむやく,名刺に書いてあった0120で始まる共通番号にかけましたが,無機質な音声案内での番号選択が延々とつづき,なかなか該当する要件の番号に辿りつかず,しかも診療時間が近づいており,途中で面倒になって切ってしまいました.
 この件,担当者に訊くと,もうこの製薬会社は全国の営業所を廃止して東京本店のみとし,連絡は担当MRさんの携帯あるいはこの全国共通番号のみになったのことです.

 他の製薬会社でも同様の傾向がみられ,業務の効率化や経営のスリム化を図るため,どんどんオフィスを閉じて東京本社のみに集約し,連絡手段も担当者の携帯やメールか自動音声の1本に集約,MRの数もどんどん減らされているようです.

 それから,新しい薬剤の情報提供をしてくれるのはありがたいのですが,最近は,では今までの同類の薬と比べてどうなのか?という質問をしても,他社の製品との比較は誹謗中傷に当たるのでできないと言われることがほとんどになりました.なんとも釈然としません.

 MRさんが説明会で使うことのできるスライドも会社で厳しく審査を受けたもののみで,彼等が自分で独自に工夫を凝らして作ったようなものは許可されないとのことです.
 モノトーンなテンプレートに細かい字で統計データや専門用語を散りばめただけの無味乾燥なスライドばかりでは,私には理解できてもスタッフには全然面白くないだろうと思わざるを得ません.

 ホテルなどの会場で行っていた製薬会社主催の講演会は,コロナ禍をきっかけにWEBあるいはハイブリッドでの開催となることが多くなり,この点は便利になったと言えばなったのですが,診療時間に重なっていたりして視聴できないことも多い.
 それならば時間のある時に視聴できるようにオンデマンドで配信してくれればと思うのですが,著作権云々とかでほとんどの場合が不可,ではせめて内容のレジュメくらいは貰えないのかと訊いても,またまた著作権とやらを持ち出されてほぼ不可能です.

 いったい,なぜこのような,何をするにも制約ばかりのガチガチの状態になってしまったのか?

 つい十数年前までは,我々と製薬会社の間には,良し悪しは別として,もう少し自由で濃密な関係が築かれていました.

 以前はMRさんたちが訪問のついでに製品名や会社のロゴが入った文房具や小物やカレンダー等をよくくれたので,助かりました.
 接待も多かったですし,医局旅行やゴルフや宴会にも帯同してくれていました.
 MRさんと個人的に親しくなることもあり,私も彼らの何人かとは未だに年賀状やフェイスブックなどで繋がっています.

 ただ,そういった風潮があまりにも行きすぎて,悪く言えばズブズブの関係になって利益相反が起こり,特にこの世界は人の命に関わる分野ゆえに社会の眼も厳しくなって見直しの風潮が高まり,外資系製薬会社を皮切りにどんどん規制が厳しくなったわけです.

 大病院と製薬会社が癒着したり,薬剤の採用を盾にとって上から目線で個人的なことにまでMRさんたちを利用したりするといった,倫理にもとるような事例も珍しくなく,ある意味調子に乗りすぎていた我々医療従事者側にも大いに反省すべき点はあります.

 それに営業所やMRを減らして賃料や人件費を削減するのは会社の経営上やむを得ないこととも思いますし,コロナ禍をきっかけに始まったこの流れは止まらないとは思います.
 特に我が国は少子高齢化が猛烈な勢いで進んでいることや,企業の労働生産性が先進国の中でも極めて低いこと等,高度成長期の栄光にあぐらをかいてしまったツケが,失われた20年と言われる日本社会の停滞をもたらしてしまったわけで,過激なくらいの改革は待ったなしであることは間違いありません.

 しかし,それによってコミュニケーションの希薄化や,サービスの低下さえ引き起こしているのであれば,本末転倒ではないのかとも思います.

 それから,これは現場を知らない厚労省の医系技官たちの愚策の結果ですが,いつの頃からかコンプライアンスという言葉がやたらと一人歩きしているようです.
 他社製品との比較が誹謗中傷に当たるというのならば,いったい何をもって薬を選ぶ基準とするのか?ということです.
 少しでも効果が優れて副作用の少ない薬が出ればそちらを使いたいと思うのは自然ですし,全く同じ薬効の薬であれば,一生懸命宣伝説明してくれる側の薬を使おうと思うのが人情というものです.

 パンフレットに書かれた情報だけを単純に伝えるだけなら情報提供者としてのMRの存在は不要ですし,現にMR自体がどんどん減らされているのを見ると,さもありなんと思ってしまいます.

 著作権についても,映画や書籍と同じような考えなのでしょうが,演者にきちんと承諾を得て,使用範囲を限定するような仕組みを作ればいいだけではないでしょうか?

 出入りのMRさんたちと話をしていても,皆現場をおかしいとは思っているようですが,いかんせん雇用される側としてはなかなか声を上げづらいとのこと,やむを得ません.

 結局は,どの業種もそうかもしれませんが,彼らと私たちの関係は,以前のような「ウェットな」関係から,どんどん欧米式の「ドライな」関係になっていくのだと思います.

 ただ社会というものは試行錯誤しながら進んでいくものですし,今はかなり極端な方向に舵が切られていますが,小さな声が積み重なることによりまた少し揺り返しが来て,もっと柔軟性のある方向に向かえばと思います.

 MRさんたちと美味しいものに舌鼓を打った「ウェットな」関係の日々が懐かしいなんていうと,叱られますでしょうか?(笑)


医師 ブログランキングへ

最近の記事

  1. 新たなる海原へ(10/29)
  2. ささやかな応援(09/16)
  3. 至極の休日,地獄の現実(08/07)
  4. 「顔パンツ」の呪縛(07/02)
  5. 製薬会社よどこへ行く(06/02)
次のページ